医療経済学
Top 最終更新日 2018/07/17

 療養担当規則2条の4で、保険医療機関は健全な運営をしなければならないとしています。法に決められるまでもなく、良質な歯科診療を行う上で、その経済的な裏付けと、適切な医療機関運営は見過ごしにはできない重要な事柄です。当然の事ですが、医療機関は一種の事業体ですから一般の事業所と同じに、「収入」と「支出」によって支えられています。
 ここでは医療機関の収入に視点をおいて解説したいと思います。

 医療機関の収入
 医療機関の収入のほとんどを占めるのは医業収入である。その言葉どうり、医業収入とは「医療行為によって得られる収入」であります。
 前述したように、日本は国民皆保険制度をとっており、社会における診療行為の大部分は保険診療で行われています。つまり、医療機関で得られる医業収入の大部分は保険収入であります。それに加えて、歯科においてはその診療の特殊性から自費診療という診療行為が存在し、自費診療収入がある一定の割合を占めています。そして、一般的には保険診療よりも自費診療の方が採算性が良いとされています。

保険診療収入 = 健康保険法を始め、いわゆる公的医療保険による診療収入。
自費診療収入 = いわゆる保険外診療・健康診断と、労災保険・自賠責保険など特殊な保険における診療収入。
雑収入 = 文書料・歯ブラシ等の売却代金・回収金属の売却代金などの収入。

 その他に歯科医師の収入としては、「講演報酬」「原稿代」「学校医の報酬」「3歳児健診などの報酬」「休日当番医としての報酬」などがありますが、直接医療機関の運営に関係するものではないのでここでは割愛します。

 保険診療収入
 医療機関の収入の多くを占めるのが保険診療収入であります。
 医療機関においては、日々の診療において受診者からその都度一部負担金を徴収します。そして、月末になると保険区分毎に集計して、「社会保険診療報酬支払基金」や「国民健康保険団体連合会」を通じて翌月の10日まで(だだし地区により5日〜7日との所もあるが、法の本則は10日である)保険者に請求します。

 その後審査委員会での審査の上、診療報酬が確定し、翌月の月末までに預金口座に振り込まれます。しかし、一部ではあるが審査委員会の決定に疑義が生じる場合があります。この場合は、保険者又は医療機関から再審査請求を行い再審査が行われます。

 つまり、8月の診療報酬は、その一部負担金を除いた額が10月に振り込まれます。ここで注意しなければならないのは、税務上8月分の報酬額は8月末の時点で計上して、10月の入金時に計上するのではないと言うことです。もし、8月分の診療点数に減点などの決定がなされた場合には、その通知が届いた月分で処理します。

 このように、診療報酬の大半は「支払基金」又は「国保連」から纏めて払い込まれますので、その把握は非常に簡明です。それに対して一部負担金の授受に関しては様々な問題が生じます。
(1) 一部負担金は必ず徴収しなければならないか? 
(2) 一部負担金の未収に対してはどうするか? 
(3) 一部負担金は現金で徴収しなければならないか? 各法において、一部負担金の徴収に関する詳細な規定はないが、クレジットカードなどで決済しても問題ないと解されています。
 ちなみに医療費の請求時効は3年であります。また、保険一部負担金にポイントを付与することは出来ません(平成24年4月:療養担当規則の改正で明文化)

 なお、患者さんが一部負担金を払ってくれないときは保険者に請求可能な場合もあります。

自費診療収入
 前述のように自費診療には、いわゆる保険外診療・健康診断と、労災保険・自賠責保険など特殊な保険における診療等に分類されます。

(1) いわゆる保険外診療(MB冠など)。これは、医院と患者との任意の契約において行う診療であり、各医院の任意の取扱が可能である。その収入の授受は、現金・ローン・クレジットカード等の決済法があり、医院と患者が合意した方法で行われます。しかし、その契約の締結や診療内容によっては、一番未収金(不良債権)として残る場合があり注意が必要です。

(2) 労災保険を直接に取り扱う場合には、健康保険と同じように労災保険の指定医になる必要があります。しかし、現実には歯科の労災指定医は少なく、傷害を受けた人が労災指定医に受診できない例もあるでしょう。その際、医療機関においては通常の自費診療として取扱い、健康保険と同じように療養費払い(労働者災害補償保険法13条の3)で処理しなければなりません。

(3) 自賠責保険については特に指定医制度はありません。これは、交通事故において生じた傷害についての診療で、本来医療機関においては通常の自費診療で診療し、患者に請求すればすむことであります。しかし、実際の診療においては保険会社から診療費が振り込まれるケースが多い。この方法は医療機関・患者・保険会社が合意すれば問題はないが、診断書や診療報酬請求書を直に保険会社に請求する際には患者の同意が必要なことは言うまでもありません。

雑収入 
 前述したように、文書料・歯ブラシ等の売却代金・回収金属の売却代金などが該当します。

 そのほとんどは現金決済されます。特に、回収金属の売却代金については計上漏れのない様に注意しなければなりません。税務調査の際には「計上漏れ」が無いかチェックされるポイントの一つです。また最近(99年)、金属を回収した会社において、実際には金属を計量しないで見なし伝票を切っていたと言うことで問題になったこともありましたので、注意が必要なことは言うまでもありません。

まとめ 歯科医院の収入の二大柱は「保険診療収入」と「自費診療収入」である。

# 余談ですが、1995年3月20日午前8時すぎ、東京千代田区の地下鉄霞ヶ関駅付近で起きたいわゆる「地下鉄サリン事件においては、周辺の多くの医療機関に救急車などで搬送されました。こういった緊急時においては保険資格はもとより個人確認も行われることなく診療を開始せざるを得ません。そして診療終了後多くの受診者が診療費を払うことなく医療機関を跡にしたという話を聞いております。
 救急隊員、警察官、自衛隊員は公費で運営されているのでこういった問題は起きませんが、特に民間の医療機関はこういった損害をもろにかぶってしまうのです。医療経済をどの様に考えるか国民の皆様方の考え方次第ですが、他の業界と同様に項目毎の収支計算に基づいて医療経済を認識するには、こういった事例を念頭に入れなければなりません。

 例えば、119番に電話すると消防車がすぐ来るという背景には、消防隊員が待機していることが重要です。もちろん待機中は他の業務をを行っているとはいうものの、待機そのものが業務なのです。
 しかし、医療現場においてはスタッフや設備を待機させておくという考え方に基づかないで医療費が考えられています。
 救急用のベッドを多く空かせておけば収支的にはマイナスなのは言うまでもないし、かといってなるべく満床にして収支を高めると緊急時に空きベッドを確保できない結果となる。

 外来診療においても、収支を考えればなるべくユニットが空かないように予約を入れたい。しかしそうした場合、急患への対応が難しくなる。そういった急患を予約の患者さんの間に割り込ませれば、予約の患者さんの待ち時間が長くなる上に、一定のレベルの診療を確保できなくなる恐れがあるのである。

 あちらをとればあちらがたたず、なかなか難しい問題である。
 しかしながら、そういった日常の現象をうまくこなすのも歯科医院の設立者たる歯科医師の技量の一つと言えるかも知れませんね。

■ ところで歯科医院の経営って、そもそも儲かるものなのでしょうか?
 歯科医院の経営はいわば水商売、儲かる医院あれば、さほど儲からない医院ありということで様々ではないでしょうか?しかし、「経営が成り立つ」という基準で考えると、破綻する歯科医院はさほどみられないのです。平成8年から14年までの7年間にわずか110件が認知されているだけです。歯科業界は冬の時代と言われますが、こういった破綻状況を数字で見ると、他の業界に比べればまだまだ守られている世界なのでしょうか。しかし、他の業界と同列に比較して良いものかということについては議論の余地があるでしょう。

 歯科に限らず、日本の医療費単価は諸外国に比べて格段に安く、大体は1/3と言われています。確かに日本における医療に様々な問題が存在し、改善の余地があるのは事実ですが、こういった低単価において医療制度がうまく機能してほうだとは思います。

 ときに知識人の文章に、海外で受けた医療と比較して如何に日本の医療に問題があるということが言われています。これは、カローラに比べて如何にベンツが優れているかという比較対象にしか過ぎないのです。海外産のウナギを使った鰻重よりも高価な国産のウナギを使った鰻重の方がおいしいのは当たり前のことですから。

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まぁ、日本における医療費総額が現在の国力に比して重荷になっているということを前提にすると、医療費単価を下げて総医療費を削減しようとするのも一方法ですが、疾病を削減して医療費総額を削減した方が国民にとって幸せなことは言うまでもありませんね。単価を下げると、過剰診療という問題が必ず生じますからね。

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