歯科医師法違反関連の判例集
Top 最終更新日 2018/09/13

■ 昭和28年3月30日 東京高裁 昭和27う3798 歯科医師法違反被告事件

・ 東京高裁判決

・ 判決内容: 本件控訴を棄却する

・ 理由

本件控訴の趣意は弁護人三木義久作成の控訴趣意書提出の件と題する書面記載の通りであるからこれを引用し、これに対し当裁判所は次のように判断する。

論旨第一点及び第二点について。

 原判決挙示の証拠の内容を検討し、これと原判示事実とを対照して見ると原判示の抜歯及び入歯はAに対してなしたものであることが明らかである。

 而してこれを認めた証拠として原判決が挙示した証人Aの原審公判廷の供述によれば同人は被告人より上歯二本を抜いて顎つき入歯を造つて貰つたが、一本はぐらぐらしてほんの一寸ついていた程度で指で押したらすぐ抜けてしまい、他の一本は金冠をかけて貰いたいといつたら歯がしつかりしておらないから駄目だといわれたので自分で取ろうと思つて始終手で動かしていたら肉が痛くてうまく取れなかつたため被告人の処に行つたところ、被告人は一寸といつてピンセットで押したら難なく取れた。抜く時は痛み止めの注射はしないが血止めをしたので血は出なかつた。その後五、六回通つて額つきの入歯を造って貰い口に合うようにして貰つて出来上つた歯は被告人が口の中に入れてくれたが肉がはれて痛かつたので自分で入れた。代金は二千円宛<要旨第一>三回に計六千円支払つたというのである。惟うに抜歯とは慢性疾患によつて保存の見込のない歯牙を除去する</要旨第一>ことをいい、その方法は歯牙の周辺に薬品を注射して局所を麻痺させ知覚を喪失させてからメス様の刃物でその歯牙を包む環状靱帯を剥離した上「カンシ」と称する機具を用いて歯牙を抜きとりその後消毒するのを通例とするが、かかる医学的操作によつて歯牙を抜きとる場合のみに限らず苟しくも人体より歯牙を人工的に離脱せしめる行為はすべてこれを抜歯として歯科医師法第十七条にいわゆる歯科医業の範囲に属するものと解すべきであるから、被告人がAに対してなした二本の歯の処置のうち少くとも後の一本についてはこれを抜歯と認めるのが相当である。次に入歯とは咀嚼機能を回復するために義歯を入れることをいい、義歯を入れるとは不良歯を整理して直接患者の口中より形をとり、適宜の操作により上下の歯の咬み合せ関係を見、これによつてできたものを患者の口腔に適合するや否やを試み、かくして調整完成した義歯を患者の口腔に装着することをいうのであるが、右Aの証言は用語やや簡に過ぎその意を十分尽さざるうらみあるもその趣旨は同人は不良歯二本を抜歯した後咀嚼機能を回復するため被告人に顎つき義歯を造つて貰うことを頼み、被告人はAの口中より形をとり上下の歯の咬み合せ関係を見、同人の口腔に適合するや否やを試みかくしてでき上つた義歯を同人の口腔に入れたという趣旨なのでおるから、被告人の右所為を以つて入歯と認定しこれを以つて歯科医師法第十七条にいわゆる歯科医業と認定したのは正当である。(論旨は原判決はAの原審公判廷の供述の外同人に対する検察官の供述調書の記載を証拠に採用して事実の認定をしておるとなし該調書の記載を捉えて原判決を論難攻撃しておるが原判決はAに対する検察官の供述調書を証拠として引用しておらないことは判文自体明らかであるからこの点に関する論旨は理由がない)而して原判決挙示の証拠(但しBの原審公判廷の供述を除く)を綜合すると被告人が原判示の如くAに対し抜歯及び入歯の行為をなして歯科医業をなした事実は優にこれを認めることができ右証拠によつて右判示事実を認定することは何等経験則に反するものでなく固より虚無の証拠によつて認定した違法もない。記録を精査するも原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるとは認められないから論旨はいずれも理由がない。

 論旨第三点について。

 原判決挙示の証拠の内容を検討し、これと原判示事実とを対照して見ると原判示の金冠篏装はBに<要旨第二>対してなしたものであることが明らかである。而してこれを認めた証拠として原判決が挙示した証人B</要旨第二>の原審公判廷の供述によると同人は以前Cという歯科医に入れて貰つた下歯の金冠が飴を食べたら抜けてしまつたので被告人方に行つて診て貰つたらこれは金冠がうすくなつているから金を足して造つてやるというので、その翌日行つたら出来上つていて被告人は金冠にセメントをつめて自分の歯のところに持つてきて葉書のような紙を渡しこれをあてて上歯でぐつと押しなさいといつたのでその通り押したら入ったというのである。惟うに金冠簸装とは金冠を自然歯に合せて装着することをいうのであるから被告人がBに対してなした右行為を原審が金冠篏装と認定したのは正当であつて(論旨は原判決は証人Bの原審公判廷の供述の外同人に対する検察官の供述調書の記載を採用して事実の認定をしておるとなし該調書の記載を捉えて原判決を論難攻撃しておるが原判決はBに対する検察官の供述調書を証拠としておらないことは判文自体明らかであるからこの点に関する論旨は理由がない)原判決挙示の証拠(但しAの原審公判廷の供述を除く)を綜合すると被告人が原判示の如くBに対し金冠篏装の行為をなして歯科医業をなした事実は優にこれを認めることができ、右証拠によつて右判示事実を認定するヒとは何等経験則に反するものでなく固より虚無の証拠によつて認定した違法もない。記録を精査するも原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるとは認められないから論旨は理由がない。
 (その他の判決理由は省略する。)

■ 昭和28年2月25日 高松高裁 昭和27う292 歯科医師法違反被告事件

・ 高松高裁判決

・ 判決内容: 破棄自判

・ 主文

原判決を破棄する。被告人を罰金壱万六千円に処する。右罰金を完納することができないときは弐百円を壱日に換算した期間被告人を労役場に留置する。 原審及び当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

・ 理由

弁護人山田節三及び被告人並びに検事中田慎一の各控訴趣意は夫々別紙に記載の通りである。

一、 弁護人及び被告人の控訴趣意中

(1) 義歯又は金冠製作の為にする印象採得(義歯又は金冠製作の為直接患者の口より型を採る行為)及び試適(義歯又は金冠の製作に際し直接患者の口中に当てゝ適否を試みる行為)は、歯科医師の免許を受けていない歯科技工師であつても、義歯又は金冠製作の必要上業務上当然為し得る行為であるとの点について
 <要旨>人の口腔、歯牙の状態に応じて如何なる時期(例えばそれら疾患、異状がある場合には治癒又は適当なる処</要旨>置を執つた後)、如何なる形体、状態(例えばどの歯につき義歯、金冠を入れるべきかどうか、どの歯に如何なる削磨、変形を施すべきかどうか)の下において、印象採得し試適するかは、右印象採得、試適を経て製作せられた義歯、金冠の嵌入(完成せる義歯又は金冠を必要あらば修正しながら人体に装着する行為)と同様、その人の歯牙、口腔、時には全身体の健全に影響を及ぼすことは明らかであるから、これらの歯科医術を前提とする印象採得、試適は嵌入と同様に歯科医術の範囲に属するものと言わなければならない(大審院大正五年九月三十日判決、高松高等裁判所昭和二七年五月二日判決参照)。一方では歯科技工師に右のような印象採得、試適行為を業とすることを認めなければその歯科技工師たるの業務を遂行できないものとは認められないのである。よつてこれらの印象採得、試適行為を業とするには、厚生大臣からの歯科医師の免許を要するものと言わなければならない。論旨は理由がない。

(2) 原判示A及びBに対する被告人の歯科医行為は、被告人が歯科医師Cに雇われて、同人の監督の下に同人の指示に従つて為したものであるから罪とならないとの点について
 本件記録を精査し総ての証拠を検討するに、原判決挙示の証拠により原判示A、Bに対する被告人の歯科医行為は、その他の原判示被告人の歯科医行為と同様、被告人が歯科医師Cの手足としてではなく、独立の主体として自己の歯科医業の一環として敢行したものと認められるのであつて、たとえ被告人においてC歯科医師の指示に従つて為されたものであるから罪とならないと考えていたとしても、その違法性を阻却するものではない。

一、 被告人の控訴趣意中、原判示のようなDに対する被告人の嵌入行為はないとの点、及び検察官の控訴趣意中、原判決がE、F、Gに対する被告人の嵌入行為を証拠不十分であるからとて認めなかつたのは、事実誤認であり、これら嵌入行為の点につき無罪を言渡したのは法令の適用を誤つているとの点について

(1) 本件起訴にかかる歯科医師法違反罪は、被告人が無免許で業として歯科医行為を営んだと言うのであつて、その行為の内容である抜歯、歯牙の削磨、印象採得、試適、嵌入は包括せられて右の一罪を構成するものであるから、原判示のようにその一部の嵌入行為が認められないにしても、この部分につき主文において無罪の言渡をした原判決は法令の適用を誤つているのである。

(2) 前示のように義歯、金冠の嵌入行為とは、前示のように完成せる義歯、金冠を必要あらば修正しながら、人体に装着する歯科医行為たる施術であつて、その場合必ずしもその施術者が自らの手でその義歯、金冠を被施術者の口中に出し入れすることを要せず、被施術者が自らこれを歯列に装填し、施術者はその状態を観察し、或は被施術者にその適応状況を審問する揚合にも、施術者の嵌入行為が成立するものと言わなければならない。本件記録を精査し総べての証拠を検討すれば後に摘示する証拠により
 被告人は歯科医師の免許を受けないで、昭和二十四年十月中旬頃から昭和二十六年二月中旬頃迄の間に、高知県高岡郡a町bの被告人居宅及び同郡c村C方で次に示す通り、八名の者に対し入歯等をなし歯科医業をした

<記載内容は末尾1添付>
 右公訴にかかる事実の全部を認めることができるのであつてその中一部の嵌入行為を認めなかつた原判決には事実の誤認がある。
 以上の法令適用の誤りと事実誤認とは判決に影響を及ぼすこと明らかである。
 よつて控訴趣意中その余の点についての判断をする迄もなく、刑事訴訟法第三百八十条第三百八十二条第三百九十七条により原判決を破棄し、同法第四百条但し書きの規定により当裁判所は更に判決する。
 罪となる事実は前示の通りであり、これを認めた証拠は原審公判調書中被告人の供述記載、原審第二回公判調書中証人E、同F、同A、同B、同Gの供述記載、原審第三回公判調書中証人Hの供述記載、司法警察員に対するFの第一回供述調書、副検事に対する被告人の各供述調書を加える外原判決の示すものと同一である。

■ 昭和27年9月5日 東京高裁 昭和27う1896 医師法違反被告事件

・ 東京高裁判決

・ 判決内容: 棄却

・ 主文: 本件控訴はこれを棄却する。

・ 理由

 本件控訴の趣意は、弁護人一瀬房之助作成名義の別紙控訴趣意書と題する書面記載の通りであるから、これを本判決書末尾に添附しその摘録に代え、これに対し次の通り判断する。

 論旨第二点について。

 医師法第二十条にいわゆる診断書とは、医師が診断の結果に関する判断を表示して人の健康上の状態を証明するため作成する文書を指称するものと解すべく、公職選挙法施行令第五十二条第一項第三号の医師の証明書が、所論のように公職選挙法第四十九条第三号すなわち選挙人が疾病、負傷、姙娠、不具若しくは産褥にあるため、歩行が著しく困難であるべきことを証明する書面であるとしても、その名称並に証明する目的の如何に<要旨>かかわらず、その内容が医師の診察の結果に関する判断を表示して人の健康上の状態を証明する部分を含むも</要旨>のであるにおいては、これを医師の診断書と認めるに妨げなく、従つて医師が自ら診断しないで、右のような内容を含む公職選挙法施行令第五十二条第三号の証明書を交付する所為は、医師法第二十条違反罪に該当するものといわねばならない。この理は所論のように医師のみならず、歯科医師若しくは助産婦も亦公職選挙法施行令第五十二条第一項第三号の証明書を交付することができことに依り、何等異同を来すべきものではない。しからば原判決が被告人の自ら診察しないで原判決添附別表記載の右証明書を交付したとの事実を認定し、これを医師法第二十条違反罪に問擬しているのは、その証明書にして前記のように医師の診察の結果に関する判断を表示して人の健康上の状態を証明する内容を含むものである限り、洵に相当であつてこれを目して所論のように法律の解釈を誤つたものということはできないのである。仍て原判決添附別表の証明書の内容を検討するに、該証明書中不在者投票事由として単に老令とあるもの以外の事由を記載した証明書は、叙上の通由に依りこれを医師の診断書と認めるべきものであるが、単に老令とのみ記載した証明書は、これを医師の診断書を認めるべきではなく、かかる証明書を被告人が交付した所為についても原判決が医師法第二十条違反罪に問擬しているのは、法令の適用を誤つたものとしなければならない。しかしながら、右の単に老令とのみ記載した証明書は、原判決添附別表掲記の証明書合計二百十七通のうち、僅に二名の選挙人分六通に過ぎないことが認められるのであるから、との六通の証明書を交付した所為についての原判決の法令適用の誤りは、被告人の刑責並に犯情に影響を来たすものとは認め難く、従つて判決に影響を及ぼすこと明らかな程度に至らないものと認めることができるから、原判決の法令適用の誤りを主張する論旨は結局理由がない。
 (その他の判決理由は省略する。)

■ 昭和27年5月2日 高松高裁 昭和27う91 歯科医師法違反被告事件

・ 高松高裁判決

・ 判決内容: 破棄自判

・ 主文:  原判決を破棄する。 被告人Aを罰金六千円に処する。 右罰金を納めることができないときは金二百円を一日の割で被告人を労役場に留置する。 原審訴訟費用は被告人の負担とする。

・ 理由

 弁護人の末尾添付控訴趣意第一点及被告人名義の控訴趣意(量刑不当の部分を除く)について。
 しかし原判決において認定する被告人が判示(一)昭和二五年春頃、Bに対し義歯施術、(二)同年九月頃Cに対し義歯改装施術、(三)昭和二六年四月中旬頃、Dに対し金冠技工等したと言うのは、その証拠と比照すれば、執れも判示の者についてそれぞれ所要個所の型を採りそれによつて作成又は改装した義歯金冠を試適並嵌装し(Dにも技工だけではなく嵌装したことは、同人の証言(三八丁裏)被告人の警察における供述調書(五〇丁)に明らかである)たことを言うのであることが明らかである。
 そしてそれ等のことは単なる歯科の技工ではなく歯科医療乃至医術行為に属することは論を要しないところである、又歯科医業とは反覆継続の意思をもつて歯科医の行為に従事することによつて成立し営利その他生活資料を得る目的の存することを要しないと解するところ右認定のように短期間に行為を反覆しておる事実及被告人が証第一乃至四号の如き歯科医療器具材料を所持していた事実を綜合すれば被告人は反覆継続の意思をもつて叙上判示の行為をしていたものであると認められるし、それについて免許を受けていないから判示被告人の所為は包括して歯科医師法第一七条に違反する歯科医業を為したものと言うべきである、猶記録を精査しても、所論の証言等が虚偽であるとか原審の採証に誤りがあるとか言うような情況は見当らない、それ故所論は凡て理由がない。

同弁護人の趣意第二点について。
 本件は検察官から公訴提起と共に略式命令の請求をされたのであるが被告人の正式裁判請求により公判手続に移行するに至つたものであること、然るに被告人に起訴状の謄本として送達された趣意末尾添付の書類には公訴を提起し「公判」を請求すると記載されているのに本件起訴状原本には公訴を提起し「略式命令」を請求<要旨>する旨記載があり両者の記載に相違があることは所論の通りであるが、元来起訴状謄本送達の制度は、被告人</要旨>に審判の対象を知らせ、その防禦権の行使を完うさせる趣旨のものであるから該趣旨を害しない限り送達された起訴状の謄本がその原本と多少の相違があつてもそれを起訴状の謄本でないとは言へないと解すべきである、しかして被告人に送達された本件起訴状の謄本における前記の如き相違が何等叙上趣旨を害するものでないし、記録上それが法定期間内に送達されたことも明らかであつて本件の起訴失効の原由はないので原審の訴訟手続には所論の違法はない。

 次ぎに職権で調査するに、

 無免許歯科医業の罪は、それが反覆継続の意思のもとに為されたものであれば、その間における各個の歯科医療行為は凡て包持して一罪となるものであるから原判示の叙上被告人の行為は包括して歯科医師法第一七条に違反し同法第二九条第一項第一号に該る一罪であることは前説示により明らかなところである、然るに原判決は判示各個の所為が叙上法条に該る各一罪で刑法第四五条前段の併合罪であるとし同法第四八条第二項により罰金を合算したのは法の適用を誤つたものでありその誤りは判決に影響を及ぼしていることが明らかであるから被告人名義趣意中寛大な処置を願うとの量刑不当の論旨に対する判断を省略し刑訴法第三九二条第二項第三九七条第三八〇条に則り原判決を破棄する。
 しかして刑訴法第四〇〇条但書によりさらに審判するに、原審が適法に確定した事実を法に照らせば、被告人の所為は、包括して歯科医師法第一七条に違反し同法第二九条第一項第一号罰金等臨時措置法第二条に該る一罪であるから罰金刑を選択してその範囲内で主文の通り量刑し刑法第一八条刑訴法第一八一条により罰金不完納の場合における換刑、訴訟費用の負担を定めた。

 尚被告人の所為が歯科技工の業務範囲内のものでないことは前叙説示によつて明らかであるから、この点に関する弁護人の主張は採用できない。
 仍つて主文のように判決するのである。

■ 昭和27年4月16日 高松高裁 昭和26う778

・ 高松高裁判決

・ 判決内容: 破棄自判

・ 主文: 原判決を破棄する。 被告人Aを罰金八千円に処す。 罰金を納めることができないときは金二百円を一日の割で被告人を労役場に留置する。 押収している証第一乃至二一号(原判決掲記の歯科医療用器具及材料)は没収する。 原審訴訟費用は被告人の負担とする。 昭和二六年一月二三日附の起訴状による公訴は棄却する。

・ 理由

 先づ職権で審査するに、
 記録を調べると、原審検察官は、原裁判所に対し昭和二五年一〇月七日附起訴状(但し昭和二六年二月七日附訴因変更請求書により訴因の変更あり)により被告人は無免許で昭和二五年五月八日頃から同年七月一六日頃までの間、高知県高岡郡a村でB外一九名に対し抜歯、入歯等をして歯科医業をしたものとして公訴を提起したるに拘らず更らに同裁判所に対し昭和二六年一月二三日附起訴状により被告人が無免許で同一期間同一場所において、同一人等に対し抜歯等をして歯科医業をなしたものとして公訴を提起したことが明らかで<要旨>ある。然し無免許歯科医業の如き職業犯にありては一旦公訴が提起せられるとその判決あるまでの同種違反行</要旨>為は包括して一罪を構成するものであるから検察官において訴因に洩れた行為を強いて審理の対象と為さんと欲するならば訴因追加の手続を採るべく、更めて公訴を提起することは許されないものと言はなければならない。然るに本件における昭和二六年一月二三日附起訴状による後の公訴事実は、昭和二五年一〇月七日附起訴状による先きの公訴事実と同種の違反行為てあつて犯行の期間、場所、相手方を全然同じうするものであるから、かかる公訴は既に公訴の提起があつた事件について、更に公訴が提起されたものであることは疑を容れない。故に後になされた昭和二六年一月二三日附の公訴は、刑訴法第三三八条第三号により判決をもつて棄却しなければならない筋合である。然るに原審は斯る措置に出でず右両公訴を併合審理し後の公訴についても判決をしたのは不法に公訴を受理した違法があるから同法第三九二条第二項第三九七条第三七八条第二号により原判決を破棄する。
 右の如く原判決を破棄する以上検察官の別紙量刑不当の論旨はこれを判断する余地がない。
 しかして事案は直ちに審判することができるものと認められるから刑訴法第四〇〇条但書に則り自判する。

 (罪となるべき事実)
 被告人は歯科医師の免許を受けていないに拘らず昭和二五年五月八日頃から同年七月一八日頃まで高岡郡a村において報酬を得てB外一九名の者に抜歯、入歯等をして(その詳細は原判決添付第一の一覧表の通りである)歯科医業をしたものである。

 (証拠)
 原判決挙示の各証拠(その記載を引用する)

 (法令の適用)
 被告人の判示所為は、歯科医師法第一七条に違反し同法第二九条第一号罰金等臨時措置法第二条に該るので罰金刑を選択しその額の範囲内で主文の通り量刑し刑法第一八条第一九条第一項第二号第二項刑訴法第一八一条により罰金の換刑、押収物の没収、訴訟費用の負担等を定める。

 (被告人等の主張に対する判断)
 被告人の判示所為は単なる歯科技工ではなく歯科医療に属するものと解すべきであるから罪とならない旨の主張は採用しない。

 (公訴棄却の理由)
 前段説示の理由により刑訴法第四〇四条第三三八条第三号に則り昭和二六年一月二三日附起訴状による公訴は棄却する。
 仍つて主文の通り判決する。

■ 昭和26年9月25日  札幌高裁 昭和26う487 歯科医師法違反被告事件

・ 札幌高裁判決

・ 判決内容: 棄却

・ 主文: 本件控訴を棄却する。

・ 理由

 弁護人の控訴趣意は同人提出の控訴趣意書記載の通りであるからこれを引用する。

 原審が被告人が患者等の歯牙脱落部の型を採り義歯を作りこれを同人等の歯牙脱落部に嵌入した事実を夫々認定しこれに対し歯科医師法第十七条第二十九条第一項を適用処断したことは所論の通りである。弁護人は右被告人の嵌入は所謂試適行為として義歯の製作販売と共に当然歯科技工師の為し得る義務範囲に属するもので<要旨>あつて原判決には法令の解釈を誤つた違法がある旨を主張するのであるがもとより金冠義歯の単なる製作販売</要旨>のみに止まる場合は所謂歯科技工師の業務範囲に属するものと謂うを得べきも印象採得即ち義歯又は金冠製作の為直接患者の口中より「かた」をとる行為及び試適即ち義歯又は金冠の製作に際し直接患者の口中にあてて適否を試みる行為並びに嵌入即ち完成せる義歯又は金冠を人体に装着するに当つて修正する行為の如きはいずれも直接患者につき施術をなすを要するものであつて当然歯科医業の範囲に属し所謂歯科技工師のなし得る業務ではない。蓋し右の如き施術は臨床上必要な歯科医学及び口くう衛生に関する知識技能を具有する歯科医師にして始めてこれを信用し得るのみならず歯科衛生士法第二条によれば同法による試験に合格しその免許を得た歯科衛生士においてすら歯牙及び口くうの病患の予防処置について、一、歯牙露出面及び正当な歯ぐきの遊離縁下の附着物及び沈着物を機械的操作によつて除去すること二、歯牙及び口くうに対して薬物を塗布することの各行為をなすについても歯科医師の直接の指導下にその業をなすを要する旨を規定するに反し所謂歯科技工師なるものについてはその資格の取得及びその行政的取締に関し何等の法規が存しない点より見るも右印象採得、試適、嵌入の各施術はいずれも歯科医師のみこれを行い得るものと解すべきであつて若し所論の如く右の施術を歯科医業の範囲でなくその以外の所謂歯科技工師の業務範囲に属することを認容すればかかる国民衛生に重大なる関係を有する施術行為を無制限に放任するの結果を生ずるのを保し難いからである。此の故に厚生省医務局においては従来より印象採得、試適、嵌入いずれも歯科医業の範囲に属するものと解釈し司法省刑事局においても右医務局の問合せに対し前同様の回答を与え(本件押収に係る釧路地方裁判所北見支部昭和二十六年(領)第五号検第一号歯牙医業の範囲について参照)又A歯科技工師会においてもその所属会員に対し右の諸施術行為を禁止(本件記録九丁以下Bの釧路地方裁判所北見支部宛書状参照)しているものの如くである。従つこ原審が原判示事実を認定し被告人の所為に対し歯科医師法第十七条第二十九条第一項を適用処断したのは正当であつて原判決には法令の解釈を誤つた違法はない。結局論旨は独自の見解に基くものであり採用に値しない。

 よつて刑事訴訟法第三百九十六条により本件控訴を棄却すべきものとし主文の通り判決する。

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