診療契約とは
Top 最終更新日 2018/04/14

 診療を受けようとする人(患者)は、医療機関の窓口で診療の申込みをします。それでは、診療を申込みそれに対して医療機関が受諾するという診療契約は、家を建てたりする請負契約と何処が異なるのでしょうか?

 診療契約の基本

@ (契約の時点)
 通常は医院の窓口で診療申込書に必要事項を書き込み提出し、医院の受付の係が受け取って診療録に記載を始めた時に契約が成立したと解することができます。もちろん、法的には「申込書」と言った文書は必要ではなく口頭でも有効です。
 保険証を添付して出すときには、すでに保険医と保険者との間で、第三者である患者(被保険者)のために契約が締結されていて、患者はその契約に基づいて請求、つまり受益の意志表示をしたと考えられます。(保険診療契約は現物給付契約)
注意) たとえば薬だけほしいと言った申し出に対して、無診察で処方箋を発行することは、元々「歯科医師法第20条」に抵触し、違法行為を内容とした契約は無効であり、診療契約そのものが発生しない。また診療費の請求権も発生しない。

A (契約によって生ずる債務)
 ところで、診療契約にあたっては、他の契約とは異なり債務の特定が非常に困難です。通常の取引のいわば固定的・客観的な債務では無く、流動的・可変的な債務です。診療行為は金銭債務と言うようなものでもなく、家屋受け渡し債務や、単なる労働というものでもありません。病状の解明や、その治療といういわば生体を対象とし、刻々変化し、対応しなければなりません。また、非常に巾のある、自由裁量的な要素を含んでいるため、単純に債務の内容を契約締結時から特定できない性質を有しています。
 診療契約は歯科医師(債務者)と患者(債権者)がお互いに協力し合って行うもので、双務契約とも言われています。つまり診療の成り行きによっては互いに債権者と債務者が逆の立場をとることもあります。たとえば、患者側に治療に協力する義務違反、あるいは指示に従わない義務違反があれば、患者側が債務者となり債務不履行を問われる事もあり得るということです。

 また診療費においては、医療上必要な場合には前払いも請求できます。(民法649条)
ただし、これは私費診療には即適応できますが、保険診療において前受金が認められるのか否かは定かでは有りません。たぶんだめでしょう。
 また、予約に関してのキャンセル料も保険診療においては認められないと言うのが厚生労働省の見解のようです。

B (契約の法的性質としては)  
 手術を除いた治療行為についてみると、一定の事実行為、つまり事務の処理をするという意味で委任に準じた「準委任契約」であると解することができます。(神戸地裁竜野支部 昭42.1.25 判決より)
 手術については、一般の診療と異なって契約の範囲も限定されるし、目的もはじめから明確です。そうなると、事務処理と言うよりも、むしろ仕事を完成するという点に主たる目的があります。ただ成功の要素は当然には含まれません。法的に見ると、このように、「ある仕事の完成を約し」という合意に達した契約を「請負い契約」とみることができます。しかし、家屋を建てるというような、計画的・定型的・固定的ではないという債務の性質から、請負としても特殊な類型と考えることができます。
 上記の様に、診療契約の性質は場合に応じて、準委任、または請負と見ることができますが、その具体的な債務の履行にあたっては現時の医療水準に、すなわち自己の知識・経験・技能をいかし、最大限に努力すべきであると考えられます。その履行に際し、責に帰すべき事由による損害については当然債務の不履行とされるが、結果が生じたということからだけの結果責任は問わないのは言うまでもありません。

C (未成年者の契約)
 患者が行為能力・意志能力を存する時には診療契約の当事者たりうるが、そのような能力を有していない乳幼児・精神障害者などの場合は当事者は親権者、その他の法定代理人であります。
ただ、行為能力を有しない未成年者であっても、医的侵襲の何たるかを理解できる者も契約当事者たりうると解するべきであります。
そうなると、未成年者の行為能力の民法上の解釈との間に差を生じることになるが、他の民法が予想している一般的な取引概念とは異なるので、取り消しうる法律行為に該当しないと考えるのが妥当であります。
 ただし保険診療はともかく私費診療の契約に於いては「保護者の承諾」を取って行った方が良いのは言うまでもありません。(民法第4条より) 

まとめ 診療契約は民法で言う所の準委任契約である

 それでは準委任契約とは何であろうか

# 委任(準委任)契約とは
 委任とは、当事者の一方(委任者)が相手方(受任者)に法律行為をなすことを委託する契約です。(民法643条)
 「法律行為をなすこと」の委託が本来の委任であるが、法律行為以外の事務処理の委託も「準委任」(民法656条)として、委任の諸規定が準用されており、両者を区別する実益は少ないのです。
 つまり、準委任の場合にも委任の内容が適用されるのです。

# 委任(準委任)の効果

受任者(歯科医師)の義務

(1) 善良なる管理者の注意義務(善管義務) 民法644条
 まず、受任者(歯科医師)は、善良なる管理者の注意義務をもって誠実に委任された事務を処理すべき義務を負う(民法644条)。
 すなわち、受任者においては、一般通常人に要求される注意ではなく、その事務に従事する者(専門家、玄人=歯科医師)の平均レベルの注意を尽くすべき義務があると言うことである。
 また、この善管注意義務は時代(医学の進歩に伴い)と共に進化することもあり、微妙な基準となりえます。
 平成8年1月23日の最高裁の差し戻し判決によると、医療行為における注意義務とは、「平均的医師が現に行っている医療行為とは必ずしも一致せず、医師が医療慣行に従った医療行為をしたからといって注意義務を尽くしたと言うことはできない。」とされています。
【参考】 医療水準

 そもそも受任者の負う義務が「結果債務」でなく、「手段債務」であることに対して、受任者側の債務不履行とは、所期の結果の不発生だけでは足りず、当該事務処理にあたり要求される善管注意義務を尽くしていなかったことにより所期の結果が不発生に終わったことまで確認しなければなりません。
 なお、善管注意義務は有償・無償を問わず受任者に要求され、判例は報酬の多少にかかわらず善管注意義務は軽減されないとしています。
 つまり、「保険だから」「治療費が安い」からといっていい加減な治療が許されるものではないと言うことであります。

(2) 報告義務 民法645条
 この報告義務自体は当然のことであるが、特に医療についての委任契約においては、医療内容が高度に専門的であることから、受任者の歯科医師は、症状、治療内容、治療に伴うリスク(手術の成功率・副作用)等につき、事後報告のみではなく、事前に充分な説明(IC)を委任者の患者にすることまで要求されます。
 これを根拠にしているのが、「インフォームドコンセント」であり「カルテの開示」です。しかし、インフォームドコンセントはともかくとして、カルテ自体の開示ではなく、診療内容の要約という形で受診者に自己の診療情報の報告を行うことで足りることは言うまでもありません。本来、カルテは専門家以外が見ても理解できるようには整備されておらず、またカルテ自体の開示を求む受診者においては、報告義務としての要求というより、例えば訴訟に向けたトラブル上の必要性から生じる場合もあるので注意が必要なのです。 

委任者(患者)の義務

(1) 報酬支払い義務
 診療契約は一般的に有償委任であるから、委任者は約定の報酬(診療費)を支払う義務を負います。
なお、報酬(診療費)は特約のない限り受任者の事務処理(診療)の後に支払うのが原則であります。(民法648条2項)

(2) 有償・無償を問わず、受任者の請求有り次第、委任者は費用を前払いする義務(民法649条)があります。
 # これも普段の診療において問題となることがあります。例えば、クラウンの印象時に装着時の費用の前払いを請求できないかというケースです。しかし、私費はともかく保険診療においてはできないとされています。従って、クラウン製作後、受診者の未来院により未装着となった場合の費用は医療機関がかぶらざるを得ません。ただし、保険者の負担する費用については「未装着請求」という形で請求可能です。もちろん、受診者の一部負担分についても請求可能であるが、、、、、この請求については問題も多い。

委任の終了(診療の終了)

 委任は継続的な契約関係であるが、当事者間の高度な信頼関係が契約存続の基礎となっていることから、他の契約類型とは異なる終了理由が設けられています。

 無理由解除権

 当事者間の信頼関係が失われた様な場合、委任契約を継続させることは委任者においても受任者においても苦痛です。
 この様な事態を想定して、民法651条1項は、両当事者はいつでも理由を問わず委任契約を解除できるものとしています。
 ただし、一方の不利益な時期(たとえば手術中)に解除することは不可能であることは言うまでもありません。

# これは実務上の問題であるが、委任者(受診者=患者)が診療途中で契約を一方的に破棄(歯に被せる型をとったが連絡無しに未来院となるケースなど)するケースなどは日常茶飯事に見受けられることである。もちろんこういった事例を元に委任者がとがめられるというケースはほとんど見られない。しかし、法的には委任者の契約不履行であり損害賠償請求に値するのである。
 巷では契約不履行をもとに委任者(患者)が受任者(医師)を訴えるケースはよくあるが、反対に医師が患者に対して損害賠償を請求できうるケースの方がはるかに多く存在するのである。
 こういった事例が存在して受任者が不利益を受けることが容易に判断できる場合、一般社会では「キャンセル料」などといった概念が契約約款に記載されていることが多いが、そういった契約概念のない行政が作成した現在の医療(特に社会保険医療)においては受任者が自己の権利を主張することは非常に難しいと言わざるを得ません。 

【参考】 診療けやぐの勧め

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